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ABOUT

about RayTune & him

レイチューンが育った渓

 

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上原がホームグラウンドとする四国剣山の渓流域は非常に山が深い。
渓相は集落から少し離れただけでたちまち源流然となり、鑿を打ち込んだような深く狭い谷底には小屋ほどもある大岩が転がり、竿を持ったままでは乗り切れない難所が次々に現れ遡行を阻む。
対岸に打ち込めるような開けた場所はわずかしかなく、階段状の落ち込みが幾重にも連なるという、ルアーでは釣りづらいロケーションである。

周辺の川へは何度か訪れ、そして取材の合間に一緒に釣りもしたが、どの川でも上原はよく釣った。もちろん、それは流れを読む眼力やキャスティングの精度といった釣りそのもののスキルの高さによるところもあるが、ルアーの適、不適が占める割合も決して小さくはなく、他のルアーを使う自分とは毎回大差がついたものだ。

 

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このような、ほんの数回のトウィッチで終わってしまうようなポイントが多い川では、ミノーには、着水した直後からリップが水を噛んで泳ぎ始める、いわゆる立ち上がりの良さが求められるが、レイチューンはその立ち上がりに優れ、見送ってしまうような狭いポイントも探ることができる。
つまりそれは狙えるポイントが広がることを意味し、攻める機会の差が釣果の差となったのは当然のことであった。
険しい渓谷の中で生まれ、そして改良を重ねてきたレイチューンが、特に山岳渓流において高い評価を得ているのは、まったくうなずける話である。
初めて手にした人には、できるだけハードな状況で泳がせてみることをおすすめしたい。

 

美と技の血統

 

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レイチューンが注目される理由が、そのビジュアルにあったことは本人も認めるところだろう。
美しい塗装はもちろんのこと、尾に向かうにつれ細かくなるウロコやエラの赤いスリットなど、量産メーカーのプラスチック製品を はるかにしのぐ精緻な造作は、まさにハンドメイドの真骨頂と言えよう。

今やトラウトミノーにおいては代表的な作者に数えられる上原だが、レイチューンを語る上で欠かせないのが、彼の師である「ホットショット」の作者、故・松本 功 氏である。
流麗なボディラインに寸分の狂いなく貼り込まれたアルミ箔、淡い色彩のエレガントなカラーリング。
息を呑むようなホットショットの美貌を目の当たりにすれば、上原が今なお日本一のビルダーと仰ぎ讃えるのも、そしてレイチューンのボディワークがその技の数々を踏襲していることも理解できるだろう。

 

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松本氏は2006年に48歳の若さで急逝した。
ホットショットの習作としてスタートしたレイチューンが改良を重ね、後の姿へと変貌する道半ばのことであった。
誠に残念ながらホットショットの新作を目にすることはかなわなくなってしまったが、その血統はレイチューンに受け継がれ、今も上原の指の中に宿っているのである。

 

ハンドメイドは高いか

 

ルアーのカラーについて、リアルだからといって釣れるものではない、というのはその通り。ホットショットやレイチューンのようにまで作り込む必要はないかもしれない。
しかし、ハンドメイドミノーについてそれを議論するのは無粋なことである。いつの世も男たちがスポーツカーに憧れるように、レイチューンに対価を支払う釣り人は、とにかくその美しさをわが物にしたいのだ。
だが、釣り具である以上、使わなければただのコレクションである。そんなことは言わずもがな。
分かりきっていることだが、それができない。

 

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渓流のトラウトフィッシングにはルアーロストのリスクがつきまとう。鬱蒼と茂る木の枝、流れに突き出た岩角、さらに水中の障害物と、そこらじゅうにトラップが待ち受ける中を無事に切り抜けるのは容易なことではない。
そんな場所で、量産品の数倍もする高価なミノーを投げるのは勇気がいる。事実、上原もちょくちょくルアーを失うのだが、彼の場合はいい。また作ればいいのだから。
だが、一般ユーザーとしては、ちょっと腰が引ける。
使うにしても消極的になりがちで、そのポテンシャルを存分に引き出せずに終わってしまう。製作者としては何とも歯がゆいところだろう。

ハンドメイドルアーが高価であるのは、説明するまでもなく生産量が少ないからである。
バルサを削ってワイヤーを埋め、箔を貼って塗装して、その間に何度もディッピングをする。
乾燥や最終のスイムテストまで含めれば、完成に要する時間は25日にも及ぶ。
手作業だけにミスもあり、廃棄したロスを差し引けば、その本数はさらに減る。

ユーザーにとっては高い値段も、労働時間と出荷した数を算入すれば賃金として到底割に合うものではなく、サラリーマンをやっていた方がよほど実入りがいい。
まったく、好きでなければやってられない職業だ。

そんな実情を知っているだけに、インジェクション(プラスチックの射出成型)でルアーを作ると聞いたときは「やはり!」と膝を叩いたものだが、どうやらそれはちょっと違ったようだ。

 

バルサの限界を超える

 

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2014年、レイチューンはついにプラスチック製のミノーをリリースした。
それを決断するに至った最大の理由は、バルサの限界を感じたことだったと言う。

たとえばハンドメイドでは、ウロコ目はテンプレートに刻まれた紋様を箔に転写するが、それではウロコの凹凸までは再現することができない。
顔やエラなどの造形を今より複雑に作ることは可能ではあるが、それを量産するのは不可能だ。
構造的に制約がありウエイトやリップの位置も自由に動かせない。
手作業だけに個体差は出るし、自然素材なので均質でもないなど、従来の方法では成し得ない点があまりに多く、新しいアイデアが浮かぶたび壁に突き当たっていた。

 

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それらの問題を解決し、具体化できる唯一の方法がインジェクションだったのだ。
つまり、バルサ製レイチューンのプラスチック化ではなく、理想の具体化をテーマに生まれたのが「TX50RSS」と「SA50RS」なのである。
大量生産が可能となれば当然ながら値段も下がる。上記2種のミノーは一般的な量産メーカー製品と変わらない価格である。これは非常に大きい。

上原はこれまで自身のウェブサイトやメディアなどで、ルアーやテクニックに関しあれこれ述べてきたが、実際にレイチューンを投げてそれらを理解したユーザーはどれぐらいいるのか? と考えると、前述の理由からそれは非常に少ない気がする。
たとえ安くなったとはいえ、ルアーのロストは痛い。だが、数千円もするハンドメイド製品と比べれば、うんと投げやすいことだろう。

満を持してのリリースだけに上原の自信も相当なもので、現時点で考え得るすべてを注ぎ込んだ最高のミノーだと自負する。その言葉が"ハッタリ"ではないことを、皆さんに確かめてもらいたい。

 

 

photo_08.jpg細谷洋介"Yohsuke Hosotani"
1959年生まれ。かつて「トラウティスト」や「釣りサンデー」などの釣り雑誌を手掛けた元出版プロデューサー。現在は大阪府池田市にて古物店とカフェを営む。

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